2008年10月18日

「台湾百岳」について−4:三角点

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【写真説明】左写真は、台湾山岳を代表する「五嶽三尖一奇」のうち「一奇」として登山愛好家の尊崇を集める奇來主山北峰(百岳16号:標高3,607メートル)の一等三角点。地表に出た標石部分が折れてしまい小石を下に入れて曲がりなりに起立させてあった。後方の緑のなだらかなスロープは合歓山連峰、左から東峰(百岳33号)、主峰(同34号)、石門山(同70号)、西峰(同81号)、北峰(同32号)が横並びに見えている。更にその後方の稜線は雪山山脈。尚、何故わざわざ「一奇」と呼ばれるのか、その一端は筆者の別ブログ「台湾古道」の「能高越嶺古道−10」で少しばかり紹介しておいたので参照して欲しい。右写真は、卑南主山(百岳50号:標高3,295メートル)の一等三角点、地表に出た標石がかろうじて残っていた。写真に写る標高は旧版、年月日は中華民国年号。私がこれまで本当に苦労して登ったと思う百岳はこの卑南主山と畢禄山(百岳36号:標高3,371メートル)の二座で追々その話はする機会があると思う。

前回の記事の中で触れた東京で測量会社を営む私の知人に、その後、素人なら誰でも持ちそうな三角点に関する質問をしておいたら丁寧な回答を貰った。今回はそれらをそのまま掲載することにした。


[Q]  待てよ、測量士の仕事は何も三角点の埋定だけが仕事ではないはず、しかも現代に於いてはもはやすべての山が登りつくされ三角点など設けることなどない(?)はずなのに、何故、新田次郎の「剣岳  点の記」は測量に携わるものにとってのバイブルで在り続けるのですか?

私の最後の質問に書いてあるような礎石部分が完全に露出した三角点を見ると相当な長さ、しかも花崗岩等を切り出してありますから相当な重さです。点の記には標石自体の重量までは書いてないようですから、一体誰が担いで登ったのか?と唖然としますが。幾ら苦労して大きなザックを背負って頂上に辿り着いてもそんな三角点を見ると、ああ自分は大したことはないなあとがっくりします。今ならヘリコプターかな?

[A] 「先人たちから受け継がれてきた精神」というのが、その答えです。昔はこんな風にして三角点を作ったんだといくら説明しても無理なことが多いので、とりあえずこれを読んでもらうということでしょうか。そうすると、若者と居酒屋での会話が成り立って行きます。与えられた仕事であれ、最善を尽くし努力するということは過去も現在も何も変わらないことです。

三角点は一等から四等まで全国のほとんどの山にありまが、GPSの出現以来一、二等以外はあまり改測されていないようです。理由としては、山に登る必要が無くなってきたからです。但し、一、二等三角点の観測をするときは今でも相当な携行品を携えて登っています。使う道具は日々進歩し、今は道具に使われているような状況ですが、先人たちから受け手がれてきた精神は受け継がれていますし、又、後世にも残していくものだと思っています。明治からつい先ごろまでの「測量」に思いを馳せながら、便利な道具に感謝も忘れません。

三角点に使われている石は花崗岩で、一等三角点に使われているものは100 kgを超えています。また、四等三角点に使われているもので60 kgあります。また、その下には、盤石がありそれも相当の重さです。当時は、人夫が背負って山頂まで運んでいました。現在は、ヘリコプターです。因みに、日本では50〜60万円・時間だそうです。


[Q] 今でも一等、二等三角点は測定するということですが、何故ですか?つまり地震等による地殻変動で以前の測定値が変化している可能性があるから?或いは定期的に測定するのですか?

[A] 仰せのとおりです。また、全国にはGPS固定局が約2,000点設置されており、そのデータは筑波にある国土地理院に送られています。特に、東海、東南海など大地震の発生が懸念されている地区はその密度も濃いようです。日本で、大きい地震が起こった時、翌日には地殻変動量が発表出来るのはそのためです。GPS固定局を設置出来ない所が今でも観測されているということです。観測されたデータは、インターネットを通じて我々でも貰うこができます。さらに、そのデータは携帯電話などでも同時に貰えますので、GPS受信機1台でも2〜3 cmの精度でその場所の位置がわかります。


[Q] よく、三角点の周りに白いシートを四辺に広げたのを目にするのですが、これは航空写真撮影用の目印かなんかですか?

[A] その通りです。航空写真上で三角点の位置がわかるように目印を置きます。空中三角測量で必要なのですが、詳しい説明は省略します。大きさは、写真縮尺(撮影高度)により違ってきます。アフリカなどで作る1/50,000地形図の場合は1 m x 5 m位の大きさのものを置きます。但し、日本などで見かけるようなものを置くと持ち去られてしまいますので、そこに石を置きその上から石灰をまいて白くします。


[Q] 三角点が破損した場合、どうしているのですか?

[A] 上記でも述べたように、三角点の石の下には盤石が埋められており三角点の十字マークと盤石のマークが同軸になっています。仮に、上部の石が破損した場合でも盤石から修復できます。盤石とも壊れた場合は新しく作り直すことになりますが、単なる材料費だけの問題ではなく、相当な時間とお金がかかることは言うまでもありません。又、長年の地殻変動で標石が破損された場合は、場所によっては新たに設置するか、そのまま捨て置くということになるでしょう。こういった基本測量に携わった測量屋の数はあまりいないでしょう。普通は、その成果を利用するだけです。

[筆者コメント]  今回のご返事の中での一番の収穫は「盤石」の意味が判ったこと。三角点標石の下に更に石が埋められていたのですね。これは全然想像が付きませんでした。点の記の「標石」の項に「盤石上ノ柱石ノ高サ」という項があり、新高山の場合、「零米八五二」と書かれているのですが、この意味が判らなかったのです。同じ点の記の「高程」の項に「海抜三千九百五十米突」とありますので、大正八年(1917年)の埋定ですがメートル表記、つまり、三角点標石の長さは約85センチということになると思います。本当なら、でかい!100キロを越えるというのも想像外でした。

[知人コメント]  今、受験生の息子は測量とは全く関係のない学部を目指しています。さみしい!!


三角点とは何か?という問いに対しては今はネット上に豊富な答えが提供されている。数ある三角点に関するサイトで秀逸と思われるのがこの「三角点の探訪」 、併せて閲覧していただけたらと思う。登山愛好家の中には「一等三角点ハンター」もいらっしゃると思うが、何も一等三角点が一番偉いわけではない。斯く言う私も一等三角点が何となく格上と思い込んでいたのだ。尤も、日本には一等三角点研究会なるものもありそこが一等三角点百名山まで選定している。因みに台湾百岳の中の一等三角点は11点、筆者がこれまでに登ったのはそのうち6点である。(終わり)
ラベル:台湾 台湾百岳
posted by 玉山 at 00:00| Comment(3) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今回の記事は極めて心躍るものでした。と言うのは測量に関する情報が主だったからです。台湾古道の記事で測量の話題が出てからその仕事にとても興味を持ち、もし次の人生を与えられたらやってみたい仕事の一つに入れていました。地面のでこぼこ、地球のでこぼこを測る、何と面白い事かと思ったのです。興味を持ったのはあくまでもコンピューターが登場する前のやり方で、実際現場に行って三角点を決め計測するという地形との格闘(?)に対してです。汗を流し、頭を使い・・・と言う所が何とも魅力的に感じます。

「磐石」、よく“磐石の備えをする”等と使いますが、その実物については考えても見ませんでした。これは三角点に限らず他のこのような建造物の下に設置されていることもあるのでしょうね。それにしても三角点と共にこの石も運び上げたわけですから本当に苦労の多い仕事だと思います。ところで、玉山主峰の石碑の石についても字を彫って運び上げたものだろうか、頂上付近の石に現地で彫ったものだろうかと考えていましたが、如何なのでしょうか?

「高尾市山友協会」がリンクされた事とても嬉しく思います。山行き情報がたくさんあるので色々想像しながら楽しんでします。来年あたり利用できたらなぁなんて思っています。
Posted by メイウェンティ at 2008年12月14日 19:49
メイウェンティさん、コメントありがとうございます。GPSの登場で測量に携わる人々の仕事・生活は大きく変化したのではないかと思います。それでも私の別の測量会社を営んでいる知人は測量は3Kだと言っていますが、私には判りません。(了)
Posted by 玉山 at 2008年12月15日 08:33
サイト運営し始めた者なんですが、相互リンクしていただきたくて、コメントさせていただきました。
http://hikaku-lin.com/link/register.html
こちらより、相互リンクしていただけると嬉しいです。
まだまだ、未熟なサイトですが、少しずつコンテンツを充実させていきたいと思ってます。
突然、失礼しました。
DfFerqhB
Posted by hikaku at 2009年06月12日 16:13
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